建設業許可業者に課せられる義務とは?違反時のリスクも解説

建設業の許可を取得することは、事業の拡大や信頼性向上につながる大きなメリットがあります。しかし、許可事業者には、その信頼に応えるために守らなければならないさまざまな義務が課せられています。これらの義務を怠ると、事業に重大な影響を及ぼす可能性もあります。
この記事では、建設業許可業者に課せられる主要な義務をわかりやすく解説します。違反した場合のリスクも踏まえ、日々の事業運営で注意すべきポイントを確認していきましょう。
許可業者にはなぜ義務が課せられるのか?
建設業の許可は、一定規模以上の工事を受注できる証明であると同時に、事業者としての適格性を示すものです。そのため、許可業者には、消費者や発注者、そして下請業者との関係において、公正で健全な事業活動を行うことが求められます。
具体的には、以下の5つの区分に分けられます。
- 許可行政庁への届出義務
- 標識の掲示、帳簿や図書の保存義務
- 契約締結に関する義務
- 工事現場における施工体制等に関する義務
- 下請代金の支払いに関する義務
これらの義務を遵守することで、業界全体の信頼性が保たれ、適正な競争環境が維持されます。
1. 許可行政庁への届出義務
許可を受けた事項に変更があった場合、行政庁に速やかに届け出る義務があります。届出が必要な事項は多岐にわたりますが、特に注意が必要なのは経営業務の管理責任者や営業所技術者の変更です。これらの変更は、許可の要件に関わるため、怠ると許可取り消しにつながる可能性があります。
届出が必要な代表的な変更事項は以下の通りです。
- 商号または名称の変更(会社名、屋号の変更)
- 営業所の所在地の変更(移転)
- 資本金の額の変更
- 役員の変更(新任、辞任、退任、氏名変更など)
- 常勤役員等(旧:経営業務の管理責任者)の変更・交代
- 営業所技術者の変更・交代
- 建設業を営む営業所の新設・廃止
- 許可業種の追加・一部廃止
2. 標識の掲示、帳簿や図書の保存義務
事業の透明性を保つため、許可業者は以下の義務を負います。
標識の掲示義務
許可業者は、その店舗と工事現場ごとに、公衆の見やすい場所に標識を掲示しなければなりません。これにより、許可業者であることを公に示し、発注者や一般の人々に安心感を与えることができます。
帳簿や図書の保存義務
建設工事の記録を適正に残すため、以下の帳簿や図書を備え付け、一定期間保存する義務があります。
- 帳簿の備え付け・保存
請負契約の内容を記録した帳簿を営業所ごとに備え付ける必要があります。保存期間は、原則として5年間です。ただし、住宅の新築工事に係るものは10年間となります。 - 営業に関する図書の保存
発注者から直接請け負った工事については、完成図や打ち合わせ記録などの図書を、引き渡しから10年間保存しなければなりません。
記録する内容 | 帳簿に記載する主な項目 |
---|---|
請負契約 | 工事名称、工事現場の所在地、契約日、注文者の商号・許可番号 |
下請契約 | 下請負人に請け負わせた工事名称、契約日、下請負人の商号・許可番号 |
3. 契約締結に関する義務
建設工事の請負契約は、トラブル防止のため、公正に行われなければなりません。
- 書面による契約の締結
工事の着工前に、契約内容を明記した書面で契約を締結することが義務付けられています。 - 不当な行為の禁止
発注者としての地位を不当に利用し、工事原価を下回る価格での契約を強制したり、資材の購入先を指定して請負人の利益を害する行為などは禁止されています。
4. 工事現場における施工体制等に関する義務
安全かつ円滑な施工を確保するため、工事現場の体制に関する義務も重要です。
主任技術者等の配置義務
すべての工事現場に、元請・下請に関わらず主任技術者または監理技術者を配置しなければなりません。
配置義務者 | 資格 | 配置が必要な工事 |
---|---|---|
主任技術者 | 一般建設業の専任技術者の資格要件を満たす者 | すべての工事現場 |
監理技術者 | 特定建設業の専任技術者の資格要件を満たす者 | 特定建設業者が元請として、総額5,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上の下請契約を締結する工事現場 |
また、請負金額が4,500万円(建築一式工事は9,000万円)以上の工事では、主任技術者または監理技術者は、その工事現場に専任でなければなりません。
※専任=常駐ではありません。
一括下請負の禁止
請け負った工事を他社に一括して下請負すること、他社から工事を一括して下請負されることは禁止されています。
5. 下請代金の支払いに関する義務
下請業者を保護するため、下請代金の支払いには厳格なルールがあります。
- 下請代金の支払期日に関する義務
元請業者は、注文者から出来高払や竣工払を受けた場合、その対象となる工事を施工した下請業者に対し、相当する下請代金を1か月以内に支払わなければなりません。 - 特定建設業許可業者に関する義務
特定建設業許可業者が下請業者に代金を支払う場合、「上記1の期日」、または、「下請業者からの引き渡し申出日から50日以内」のいずれか早い期日内に下請代金を支払わなければなりません。 - 割引困難な手形による支払いの禁止
特定建設許可業者が、下請代金の支払いを一般の金融機関で割引を受けることが困難と認められる手形により行うことは禁止されています。
建設業許可業者・義務違反時のリスクとまとめ
これらの義務に違反した場合、行政処分(業務改善命令、営業停止、許可の取り消し)の対象となります。さらに、行政処分を受けた場合、その事実が公表されるため、社会的な信用を大きく失い、公共工事の指名停止や民間工事の受注減少といった、事業の存続に関わる事態に陥る可能性があります。
建設業の経営者は、これらの義務を日頃から遵守し、社内でのチェック体制を整えておくことが不可欠です。適切な内部監査制度を構築し、違反行為を未然に防ぐことが、事業を安定的に継続させるために非常に重要です。